ひとりでオールを漕げると、ケモノは思っていた。

銀行のまえで、見知らぬ少年がフレデリックのオドループを歌いながら踊っていた。オドループめっちゃいいよねと話しかけたかった。私は「ほねのふね」という曲が好きです。

何もかも嫌になったので髪をきりに行った。さあ、いまから髪を洗ってもらうぞというタイミングで職場から電話がかかってきてしまいシャンプー台のうえで業務電話をするという状況になった。髪は無事に短くなりました。

家の事情が諸々たいへんになってきたので、職場でいまの私の状況を説明する機会が増え、話せば話すほど「語り」慣れてしまい、はじめはつっかえながら泣きそうになりながらどうにかしゃべっていた内容をすらすらと話せるようになってきた。相手がどんな質問をしてくるかも学習して予め話のなかに情報を載せておいたりあるいは隠しておいたりする余裕すらでてきたので慣れるとはすごいことだなあと思っている。

ホン・サンス監督の『逃げた女』という映画で、主人公の女性は色々な相手に自分と夫との「結婚生活」(夫との距離感)について話すのですが、相手が誰でもだいたい同じ内容を同じような表現で語るのでそれが恐ろしく、この映画では「繰り返し同じことを喋るとだんだん嘘になっていく」というような台詞があって、自分の「喋り」と感情がどんどん離れていく感じを体験しながら『逃げた女』を思い出していた。