わが魂を剣から解き放ちたまえ わが愛を犬の力から解き放ちたまえ

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』を観ました。

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カンバーバッチ演じる牧場主でカウボーイのフィルは、弟ジョージの妻となった女性ローズとその連れ子ピーターにたいへん冷たく接する。ぎこちない家族の関係性のなかで、あることをきっかけにバランスが崩れていく、というような話だった。

舞台は1920年代のモンタナ州で、砂と山、光と川と獣たちと死、アルコールと土の匂い、とても美しい映像だった。監督はジェーン・カンピオン。私はこの監督の『ブライト・スター』という映画が大好きでそちらも光と花々が華やかなぶん死の気配も濃くてコントラストが凄まじかった。

映像はもちろん音の描写もたくみで、フィルが歩くと、ブーツの金具が音を立てる。彼の気配にローズが怯える。
そしてピーターが櫛をはじく神経質な音も、彼の弱さではなく静かな威嚇のようだった。

監督はおそらく「フィル」という男をたいへん愛してしまっているのでは、と思った。彼の知性(教養があること、彼の書く文字の美しさなど)をさりげなく配置していたし、何よりめちゃくちゃ「かなしい生き物」のように撮っており、でもこれはもしかしたら私がフィルのことをどこかで、かなしい生き物だな……という目で観てしまっていたからかもしれない。しかし、かなしいからといって彼の攻撃性が肯定されるわけではない。

家に居場所がないというのは、ローズにとっては逃げ場がなく、彼女を「病んでいる」と言うまわりの状況が病んでいる。
ローズの人生を考えると、彼女の「障害物」とは何なのか。わたしはフィルよりもジョージのほうがローズにとっては厄介な存在なのではと感じた。

ピーターを演じるコディ・スミット=マクフィー、どこかでみたことがあるなと思っていたらコングレス未来学会議の!息子役だ。
コングレスでも彼は母親の執着を受け止める存在だったけれど、パワーオブザドッグに於いても母親と息子の依存関係がどんどん目立っていき、フィルはそれを嫌悪しているゆえの加速(ピーターを母親から開放してやらねばと、彼のメンターになろうとする)がすごかった。

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